ノー・ガンズ・ライフ・2期エンディング メイキング
演出・撮影・VFXスーパーバイザー。サイクロングラフィックス代表 / 加藤道哉
HPリニューアル後の初めてのBLOG。ノー・ガンズ・ライフで、2期エンディング監督しました加藤です。本編のVFXスーパーバイザー・映像演出担当もしています。
ノー・ガンズ・ライフ2期のエンディングを、UnrealEngine4.24、RTXによるレイトレースとシーケンサーを使って作ったので、簡単なメイキングをまとめてみました。因みに、ノー・ガンズ・ライフ本編のCG背景のシステムは、設計が少し前なので、バージョンが1つ下のUnrealEngine4.21を使用しています。
楽曲を受け取ったのが、OA予定のおよそ2か月前。制作期間2か月はTVシリーズでは、結構あることですが、それにしても時間が無い…。ということで、UE4.24のシーケンサーで殆ど作ってしまおうと考えました。
絵コンテ
コンテと映像設計(オフラインムービー)に2週間ほどかかりました。十三とセブンのストリートファイトは原作には無いエピソードですが、特別に原作のカラスマタスク先生からお許し頂きました。
(モーションキャプチャーでアクションアクターさんに演技をお願いするので、演技はざっくり目、カットの目的は明確に描きます。オフライン編集とコンテを、同時に詰めていくのが僕の制作スタイルです。)
キャラクターモデリング
十三とセブンのモデルは、1期のエンディングイラストでもお世話になったくつぎけんいち氏。イラストが素晴らしい上に、CGデザインも素晴らしいのです。
(コミックのヒーローをカッコ良くモデリングするには、絵と立体、CGに深い造詣と知見が必要です。完成映像ではアニメのように主線を加えています。)
ステージモデリング
サイバーパンクな路地裏をきっちり作り込みます。制作のカロリー全てを、ストリートファイトに注ぐため、コンテを描いている間に、UE4のアセットショップに頼り切り、オリジナル素材を足してセッティング。担当は、本編のCG監督の設楽さんと工藤さん。この時が、みんなUnrealEngine4.24のRTXは初体験。
(UE4のアセットの恩恵にすがりきり、完全に見栄え重視でアセットを買い漁って、オリジナルパーツ足し込んでいきます。ラーメンや招き猫のネオンはオリジナルです。)
モーションキャプチャー
キャプチャースタジオはSPICEさん。アクターは活劇座の佐久間さん(十三役)、田之上さん(セブン役)。アクション監修に柴田さん。皆さん映画のアクションアクターの超一級の方々です。さずが、キレッ、キレの動き。
(モーションキャプチャーは1日で撮影完了。十三、セブン、モブキャラ全部をこのメンバーで撮影しました。SPICEさんが、後処理で相当に丁寧にデータをまとめて頂けました)
作画アニメーション
本編はセルアニメなので、CG化は拡張者のみにしています。作品のイメージを壊さないように鉄朗、メアリー、オリビエ、ペッパーは作画しました。アニメーターは袖山麻美さん。オリビエが70年代ディスコダンス、メアリーはトゥワークダンスをお願いしています。
(袖山さん、とってもキュートに描いてくれてありがとう!)
CGアニメーション
ここまでの工程の半分を使ってしまいました。残り1カ月しかありません…。CGアニメーションは、工藤洋彰さん。本編のCG監督補も並走しながら、モーションキャプチャーの流し込みの面倒な調整だけでなく、複雑なカメラワークや、手付アニメーションを全部一人で担当してくれています。モーションキャプチャー以外のアニメーションは、今回は3dsMAXで作成しています。
(犬の拡張体を途中で追加しました。時間の無い中、ファイナルプレビューを見ながらの作業です。)
シーケンサー
僕らはUE2.24のシーケンサー(カメラ、レイアウト、ライティング)を使うのは初挑戦です。シーケンサーの調整は、CG監督の設楽さん。EPICのサイト、SNS等で機能は知っていましたが、実際に本番で使うのは別物です。初めてづくしの挑戦で、革新的な新機能とバグの混沌をさまよう冒険でした。結論として感じたことは、シーケンサーは、ものすごいポテンシャルを持った機能だと思いました。
(シーケンサーは、これからの映像造りを変えていく機能だと思います。)
驚いたのは、3DCG空間で自由にセッティング、ライティング、カメラ、アニメーションやって、後でどれだけでも自由に3DCGのシーケンサー上で編集できること。この概念は頭で分かっていたのだけど、実際にやってみると感激でした。例えば光の回り込みなどの立体的な変化が、全てリアルタイムで反映されるので、ものすごく革新的な経験でした。遠方のビルのレイアウトも1カット直せば、全カットで修正されます。決めたカメラのファインダーを中心に、景色のレイアウトができたりします。また、十三のスローモーション表現も、シーケンサーの再生レートの調整でおこないました。難点があるとすれば、ルック決めの線引きをしないと、無限に作業を詰めていけるので、終わりがないということかも…と思いました。
FXパーティクル
今回、スパークや煙などのFXもUE4上のパーティクルで挑戦しています。UE4スーパーバイザー・藤井正広さん(あやまよ)が担当。殴りあうスパークや、岩の砕ける煙などもリアルタイムで描画されます。コンポジット用のマスク出しなどはいろいろ工夫して対応しました。
(リアルタイムのFXなので、映像で使うには少し癖があります。ただ、スパークの光など、FXのタイミングでシーン全体に反映するので、臨場感ある映像にできました。)
モーショングラフィックス、モニター類
いろいろな経験不足を乗り越えて、何とか完成に辿り着けそうと思っていたら、CG監督からモニタの中が、思っていたように動かせないとの連絡。UE4では、電子看板のQTやMP4を貼り込むと、レンダリングする場合にフレームレートが安定しないことが発覚。よって、ゲームデータのようにムービーをスプライト表示に変換。中央の巨大モニタは、解像度的にスプライトでは作成できず、急遽アフターエフェクツのMochaで対応することに変更しました。UE4からはトラッキングポイントの出力で対応しています。担当はリードコンポジターの飯田さん。
(情報だけ鵜呑みにすると、こういうことが起きるのが革新的なツールあるある。でもリスクより、バリューが遥かに凌駕するので、ノー・ガンズ・ライフの間に、柔軟に対処できるようになりました。)
コンポジット
コンポジットは御なじみアフターエフェクツ。サイクロングラフィックスでは、BoisFXのSapphireを中心に使っています。UE4で殆どの効果を終えているので、すんなり終えられるかと思っていたら、なんとここからは人間の業との戦いの始まり。映像のコンポジットの詰めは通常、カットごとの作り込みですでフィニッシュします。しかし、リアルタイムエンジンはレンダリング時間がほぼ無いので、コンポジットで詰めて直すよりUE4上で直した方が、遥かに早いことが分かりました。そこで僕らの選んだ方法は、時間の許す限りUE4で全カットアップグレード→全カットのコンポジットをアップグレードを、頭から最後まで3周繰り返しました。これは、これまでの映像の作り方と違うので戸惑う人もいるかもしれません。
(UE4からは、リアルタイムでFog、Occlusion、Fall off、FX、Maskなどの3D素材が出力されます。コンポジットは御なじみAfterEffrcts。UE4で殆ど詰めているので、基本LUTと調整エフェクト、被写界深度、ベロシティ周りの調整です。)
グレーディング・編集
サイクロングラフィックスでは、全ての作品にカラーグレーディング調整します。カットごとの僅かな色の散らかりを、この工程で整えます。結果的に本エンディングではフローの中心をUE4にしたので、コンポジット、編集、グレーディングを同時に行うことになりました。今後、UE4のポスプロ機能含め、ワークフローの開発が不可欠だと感じました。
(編集はPremirePro。カラーグレーディングはLumetriをtangent waveのELEMENT TKにて。)
おわりに
エンディングでは十三のパンチは、最後までセブンには当たらない。殴られても殴られても立ち上がるタフでニヒルな乾十三。彼がパンチをキメるのは、本編で見てください。
カラスマ先生原作のノー・ガンズ・ライフ、70年代の懐かしいサイバーパンク感、UE4という新しいツール、不器用で愛されるタフガイを感じて貰えたら嬉しいです。
これを機にアニメの世界でも、UE4が流行っていくといいんだけどなぁ。
エンディング監督・コンテ・編集:加藤道哉
CGアーティスト:設楽友久 工藤洋彰
モデリングアーティスト:くつぎけんいち
作画アニメーター:袖山麻美
モーションキャプチャ:杉本 玲 金子晶子 窪内隆昌 井草海里 スパイス
アクションコーディネイター:柴田洋助
モーションキャプチャーアクター:佐久間一禎 田之上生海 活劇座
コンポジター・グラフィックデザイン:飯田甘奈
エンディング制作進行:吉野智美
テクニカルスーパーバイザー:藤井正広
エンディング制作:サイクロングラフィックス
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